世界に一枚のゾンビ【MTGゾンビ雑談 その2】
憧れのカードの条件
誰にだって、1枚は、きっと
カードゲーマーにとって特別なカードというのはたくさんあると思います。たとえばそのTCGを象徴するような伝説的カードなどは、分かりやすく万人の憧れの的になり続けていると言えるでしょう。そしてそんなカードはどの界隈にも必ず存在します。ブラックロータス、ブルーアイズ、リザードン…もちろん他にもたくさん。それらは誰もが欲しいし、誰もが憧れるすごいカードたちです。
しかし、これらのようにその価格や物語や希少性から、一生のうちで入手できないような幻のカードだけが特別な存在であるというわけではありません。あたり前のことですがプレイヤー・コレクターの一人一人に、その人にとっての特別なカードというものが存在します。
たとえば、それは使っていてとても楽しいカードだったり、今の環境から考えればとてつもなく弱いけれど当時少年・少女だった私たちを夢中にさせた青春のカードだったり、好きなイラストレーターの描いたアートのカードだったり、突拍子もないエラーカードだったり、純粋にプレイしていて強いカードだったり。
客観的な尺度で測れるような「強さ」や「希少性」や「美しさ」がすべてなのではなく、そのカードに対するその人固有の想いがごく普通のカードを“特別”な1枚へと結晶化させていくということです。
あの頃カードからは魔法と畳の匂いがした
たとえばですが、私なんかの場合、第五版の白枠で細めの怪しいフォントの《チャブ・トード》なんかを見ると、当時“ギャザ”漬けだった少年時代が一気に思い出されます。このクリーチャーは間違いなく魔法の世界の生き物でした。そしてあの頃の思い出はいつも祖母の畳の部屋の香りとともにフラッシュバックするのです。これも十分に“特別”な一枚と言えます。
チャブ・トード、チャブ・トード、
ドアの外。
急いで逃げないと、
もう、逃げられない。――― 古くから伝わる童謡.
フレイバーもイラストもほんとうに大好きです。
好きな理由は「好きだから」
さて、そんな特別な一枚のために我々カードゲーマーは猛烈な愛を注ぎ込みます。しかしながら時としてその行きすぎた“愛”は他の人にとっては理解が難しい場合もあるかもしれません。
「そんな弱いカードに大枚はたくならコレを買った方がいい」だの「将来的に値下がる可能性の低いアレを抑えた方がいい」だの言われる場合さえあるかもしれません。しかしTCGを愛している人間からすればこれら外野の声がどれたけ野暮でツマラナイものかすぐに分かるはずです。そしてただちに声を大にして叫ぶはず。「俺には/私には、このカードが今すぐにでも必要なんだ」と。
私はこれこそTCGの大きな魅力のひとつであると信じて疑いません。誰になんと言われようが自分の好きなものをただひたすらに集めたり、どうにか工夫してデッキに組み込んだり、ときには別の形でなにかを表現したりするのに用いたり。なぜと理由を聞かれても「好きだから」。最高じゃないですか。
今日もどこかで自分の好きなカードを好きなだけ集め、それを並べて眺めてはニヤニヤしている人間がこの世界にいると妄想するのは、とても愉快で素敵なことです。そして私はそんな人たちの(行きすぎた)コレクションを観ることや、(行きすぎた)こだわりを聞いたりしたいと常に思っております。なぜならそれは間違いなく楽しいものだからです。
私の場合
けっきょくスケイズ
さて、かくいう私はゾンビのヲタクをやっております。
MTGに限らず、シンプルに広義の意味でのゾンビ・コンテンツを愛している人間です。映画やマンガはもちろんのこと、小説やフィギュア、そしてもちろんMTGのゾンビも大好きです。中でも私が愛してやまないカードが《スケイズ・ゾンビ》というカードです。「なんだそのカード?」と思われた方は、なぜ私がこのカードを好きなのかこちらの記事にあるので読んで頂ければ幸いです。
このスケイズ君、普通の人にとってはストレージで10円で売られているただのザココモンカードです。しかし私にとっては上の記事にあるようにとても特別な愛しいカードなのです。全言語収集に乗り出すほどこのカードが好きです。
この世には超絶レアなスケイズが2枚ある?
そんなスケイズ・ゾンビというカードですが、実はとても希少度の高いバージョンが存在しています。
ひとつは、これはご存じの方も多いと思いますが、サマーマジックやエドガーと呼ばれるものがそれです。長くなるので詳述はしませんが、簡単に言うと破棄するはずのセットが手違いで流通してしまったもので、その流通量はとてつもなく少ないことがわかっています。カードにもよりますが本来なら10円くらいの価値しかないコモンのカードでも、ひとたびサマー版になれば5万円はくだらない価格がついたりします。それほど希少価値の高いものなわけです。
詳しくはこちら↑をどうぞ。
そしてもう一つ、サマーと同じようにとても貴重なバージョンがあります。それが、第七版の中国語絵違い版です。そんな版はじめて聞いたぞ、という方のためにWikiからの引用を下記にいたします。
2008年まで中国語版では法律上、イラストに骸骨の絵を使用することが禁じられていた。そのため、骸骨を含むイラストのカードは他の言語とは違う特別なイラストが使用されることがあった。
七版のスケイズ・ゾンビをみて見ましょう。
死者的な朽ちた肉体の存在が兵士を沼に引きずり込むイラストが描かれております。上に引用した理由からこれはイカンというわけで別イラストが用意されました。それが中国語絵違い版というわけです。
世界に一枚…?
当然中国語版だけに用意されたイラストということで、その流通枚数は一気に少なくなります。しかしながら通常版は現在でも普通に買い求めることはできます。
そう、問題はfoil版です。
これが本当に出回らない。
しかも七版のfoilですので今のようにパックを剥けばバカバカ光る時代の代物ではなく、本当にfoilが希少だった時代のものですからね。当然その数はさらに絞られていきます。
では、それのPSA最高評価の10となったらどうなるのでしょうか?
パックを剥いてそのまま鑑定に出しても10を獲得するのは難しいとされています。上記の理由で発行枚数は激少なカードのPSA10となると相当なハードルになります。
しかしそれは現在、奇跡的に世界に一枚だけ存在しております。
そして、そのカードは今、奇跡的に私の手元にあります。
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このたびめでたく世界に一枚のスケイズ・ゾンビのオーナーになりました!
なんと…なんと神々しい。
そしてなんてかわいいんでしょう。
いつかは手に入れたいと思っていたスケイズ・ゾンビの中国語絵違いfoil…ついに入手することができました!
スケイズコレクターの私の感覚ではありますが、おそらくスケイズ・ゾンビのなかでもっとも入手難易度が高いのがこの中国語絵違いfoil(美品)だと思われます。希少度で言えばおそらくサマーよりも市場在庫は少ないのではと思っております(もちろん私見です)。実際サマーは結構流通しており、eBayやCardmarketではチラホラ出品されているのを目撃します。
この中国語絵違い版foilのスケイズですが、実は半年くらい前に一度PSA9が売られているのを見たことはありました(PSA鑑定上は世界に二枚存在してます)。しかしそのときは予算的の都合で購入を断念しました。
しかし今回、まさかのその上をいく最高評価10が売られているのを発見。これを逃したら今後このレベルの逸品に出会える確率はほぼ0%に近いと直感的に悟ったため、PSA9よりももっと高額でしたが思いきって購入しました。結果、私にとって今まで買ったカードの中でもちろん郡を抜いて高価な一枚になりました。
自分にとって大切なカードの、世界に一枚しかない物を手に入れられる。こんな経験はそう簡単にできるものではありません。いま手元にあるスケイズ・ゾンビを眺めて思うのは、値段こそ私にとっては清水の舞台から飛び降りるような覚悟が必要だったものでしたが、不思議とまったくもって何一つ後悔していないということです。それどころか本当に良い買い物をしたと自分を誉めてやりたいくらいの気持ちでいます。
他の人から見れば、このカードは大した魅力を放っていないものとうつるかもしれません。ちょっとニッチでマニアックなだけのカード程度のものでしょう。けれども私にとっては何物にも代えがたい一枚です。本当に究極の一枚だと思っています。上に挙げたサマー版のPSA10があったとしても、個人的にはこのカードを凌駕する魅力があるかと言われればそれは判断に難しいところです(フォイラーなもので…笑)。
そのくらいこのカードは私にとって特別なものであり続けていました。私のなかでのスケイズ・ゾンビのトップオブトップを手に入れてしまったのです。こんなもの嬉しいどころの騒ぎじゃありません。最近は半狂乱で日々を過ごしております。
自分の愛してやまないカードの、究極の一枚を手に入れられる日がこんなに早く来るとは思ってもいませんでした。一生大切にしていこうと思います。まだまだスケイズ・コレクターの道のりは長いですが、この一枚を入手できたのはだいぶ大きな一歩でした。今後もスケイズ君を求めてさまよい続けようと思います。
スケイズ・ゾンビよ、永遠なれ!
《スケイズ・ゾンビ》【MTGゾンビ雑談 その1】
とあるゾンビについての覚書
初めまして。ゾンビヲタクの不死者と申します。突然ですが皆さんは Scathe Zombies というカードをご存じでしょうか?
↑こんなカードです。
知らない方はコチラにMTG Wikiの記事がありますのでお暇な時にでもどうぞ。
日本語版の表記はそのまま《スケイズ・ゾンビ》。
このあまり聞き慣れない「スケイズ」とは何ぞやというと
Scatheは「害を加える」といった意味。まだ翻訳の方針が確立していなかった頃に訳されたためか、日本語版は「スケイズ」と音写になっている。
と、こういった意味と命名の経緯があります(タメになったねぇ~)。
[※追記:下記ブログにてとても興味深い考察がなされております。なんとこの“スケイズ”という名は地名なのではないかというエキサイティングな内容です。スケイズ君を愛する筆者ですが、こちらに書かれている内容すべてが初めて目にするもので本当にめちゃくちゃ面白いので是非よんでみてください!(2021.4.1)]
害を加えないゾンビなんておるん?と思いますが、まぁ頭痛が痛い的な感じで多目にみましょう。(もし英語に詳しい方がいたら現代ならばなんと訳すのかぜひ聞いてみたいものです)
さて、スケイズ君についてもう少し掘り下げていきましょう。ゾンビだけに。(墓的な意味で)
スケイズ君は1993年にはじまる長いMTGの歴史の最初期のセットであるアルファに収録されているクリーチャーで、その性能は3マナ2/2のバニラ。もちろんこんな性能なので現代では(当時も?)ほとんど日の目を浴びてこなかった超激ヨワ生物です。
これは私見ですが、『3マナ・2/2・バニラ』型のクリーチャーはマジック界を代表するザ・よわよわ生物といえ、そうなるとアルファに収録されたスケイズ君は最古の最弱生物というわけです。可愛いですね。
でも昔のマジックなんてどうせみんなこの程度の抑えられた控えめ性能の生物がメインだったんじゃないの?と思われる方もいるかもしれませんが、ここで同セットに収録されている黒のクリーチャーを見てみましょう。有名なカードと言えば、
《黒騎士》や(強い&カッコいい)
《惑乱の死霊》(強い&カッコいい&強い)
などがいます。もう比べるまでもなくスケイズ君とのポテンシャルの差には凄まじいものがあります。
黒騎士は2マナ2/2、先制攻撃、プロテクション白です。対するスケイズ君は3マナ2/2です。スケイズ君が黒騎士レベルの能力を得るには8マナ域くらいの生物にならないと無理そうですね。
惑乱の死霊にいたっては同じ3マナですからね。暗黒の儀式からの1ターン目着地をA定食と呼ぶなら、儀式からのスケイズ・ゾンビはZ定食といったところでしょうか。(弱さもZ級ながら、ゾンビだけにZです。うまい)筆者はZ定食を推していきます。
しかしこう見るとなんともバニラ生物とは罪深い存在であり、ゆえに独特の魅力がありますねぇ。(ありますよね…?)
もちろん『3マナ・2/2・バニラ』型のクリーチャーはスケイズ君の他にも沢山いて、マジックにおける牧歌的なカードの象徴的存在として我々をなごませてくれております。(と、私が勝手に思っています)たとえば同セット内だと、
《真珠色の一角獣》だったり(かわいい)
《灰色オーガ》(強そう)とかがそうです。
これらのバニラ生物たちにはどいつもこいつもテキスト欄に何やら長々と文章が書かれておりますがご安心を。そちらはもちろんすべてフレイバー・テキストです。自分、バニラなんで。
フレイバー・テキストにみる文学作品
さてさて。我らがスケイズ・ゾンビのフレイバー・テキストにはいったいどんなことが書かれてるんだいと言うと、それは十八世紀のイギリスのロマン派詩人コウルリッジの詩からの引用です。(MTG Wikiには小説からの引用と記載されていますが原作は詩形式の作品です。原題は“The Rime of the Ancient Mariner”、邦題だと『古老の舟乗り』という作品がそれにあたります。邦訳ですと下記の岩波文庫版が一番メジャーなものになります。スケイズ・ゾンビヲタク必読の聖典ですので買いましょう)
そこに書いてあるのはこんな内容です。
うなり、うごめき、そいつらは立ち上がる。
言葉もなし、その目に動きもなし。
それは夢だとしても、あまりに奇妙なこと。
こんな死人が蘇るなど……。
うーん、、なんとも素晴らしいフレイバー。マジックのカードには魅力的なフレイバー・テキストがたくさんありますが、古来アルファより存在するこのスケイズ君は、フレイバー・テキストに実在する作品からの引用が初めて採用されたカードでもあるわけですねぇ(すごい)。
余談ですが実作品からの引用は最近ではMTGの世界観をより強固なものにするため、意図的にその数が減らされているようですが、このようにフレイバー・テキストに実在する作品から引用がされたカードには他にもこんなものがあったりします。
再びの登場、スケイズ君とはα友達(アル友)でもある《真珠色の一角獣/Pearled Unicorn》
「あのね、私も一角獣って伝説の怪物と思っていたわ。だって、今まで、生きている一角獣なんて、一度も見たことなかったんだもの」
「では、こうして出会ったのだから」と一角獣が言った。「君が僕の存在を信じてくれるなら、僕も君の存在を信じるとしよう」――― ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」.
眠気を誘うような思考の洞窟の暗い奥で、夢は日中の様々なものが落としていった欠片から巣をつくるのだ。――― ラビンドラナート・タゴール.
いやはやそれにしてもコウルリッジにルイス・キャロルにタゴールと、それぞれがカードにぴったりあった文学作品から見事に世界観を反映する箇所が引かれており、その引用センスはさすが世界のマジックですね。
ボロクソに言われるスケイズ君
さて、話をスケイズ・ゾンビに戻しまして。
上記にもあるこのカードのWikiに目を通してもらえば分かりますが、スケイズ君はこんなに弱いのでかなりひどい言われようをしています。たとえば、
むしろ、この性能の悪さと基本セットの常連ぶりがこのカードを有名にしていると言える。
(シンプルな悪口)
変異(不特定マナ3点で唱えられ2/2、さらに+α)が世に出た時は、さんざんな言われようだった。
(さんざんな言われよう)
第9版・第10版ではその1つであるナントゥーコの鞘虫/Nantuko Huskがアンコモンに同時収録されているので立場が無い。
(ゾンビにも人権を)
………そんなに言わなくても。
そして極めつけはYahooで“スケイズゾンビ”と検索するとMTG Wikiの「カスレア」のページが本来のスケイズ・ゾンビのページよりも上位に表示される始末(なんでやねん)。↓
ゾンビヲタクである私はこのカードが大好きなので、週に1~2回はスケイズ君の市場在庫やアレコレを検索する機会があるのですが、その度にこの「カスレア」の文字に出会うので「あれ?いつの間にレアになったんだ?」と錯覚しますが、もちろん当の本人はバッキバキの終身名誉コモンです。
さて、このままではスケイズ君の名誉が傷つけられっぱなしなので、ここからはこのカードの誇るべきポイントを紹介してゆこうと思います。そんなんあるんか?と思われるでしょうがもちろんありますよ。たぶん。
スケイズ君のここがすごい
【★その1《最古の部族、その第一体目》】
マジックには多種多様な部族がいますが、ゾンビは最初期から現在に至るまで存在する最古参部族です。しかもこのスケイズ君、なにがすごいってマジックにおける唯一のオリジナル・ゾンビなんですよ!
どういうことかというと、アルファ版が発売された当時に存在した“正式な”ゾンビは、厳密にはこのスケイズ君だけなのです。後になってサブタイプ変更によりクリーチャータイプ・ゾンビを獲得したカードはありました。それが、
《ゾンビ使い》と
《食屍鬼》の2枚です。
これらは後々になってアルファからいるゾンビとなりましたが、発売当初から“ゾンビ”、つまり“Summon Zombies”の表記を持っていたのは我らがスケイズ君、ただ一枚だったというわけです。(ちなみに上記2枚の後発ゾンビ組の元々のオリジナルなクリーチャータイプはそれぞれ《ゾンビ使い》がロード、《食屍鬼》がグールと設定されておりました。これらのクリーチャータイプはどちらも現在では廃止されております)
この事実がどれだけスケイズ・ゾンビを特別なカードにしているか分かりやすく言うと、ロメロのゾンビサーガでいうところのビル・ハインツマン的な存在、といえばそのすごさが皆さんにもすぐにお分かり頂けると思います。
(………万が一分からないという方がいたら今すぐ『Night of the Living Dead』を観ましょう。ゾンビ界としてはもちろんのこと、映画史的にみても古典名作映画です)
ちなみにですが、本作は著作権標記を欠落させたことからアメリカではパブリックドメイン状態にあるとみなされているため、YouTubeでも観れます。
現在のMTG界における多種多用なゾンビたちは、その起源はすべてこの始祖ゾンビであるスケイズ・ゾンビに持っており、そこからゾンビウィルスが感染して広まっていったと(勝手に)思うと感慨深いものがありますねぇ…。(ゾンビウィルスが次元を越えるのかは知らんですが)そのうちジェイスあたりがうっかり噛まれちゃってゾンビ落ちしたりしないかしら?どうです?スケイズ君って偉大でしょう?
【★その2《イラストはあのJesper Myrfors氏》】
イラストを手掛けたのはかの有名なJesper Myrfors氏です。デュアルランドやハルマゲドンが特に有名ですね。
皆さん見てください。ゲドンなんかまんまスケイズ君の実家かな?と思ってしまうくらい雰囲気がマッチしてますね。もう実家ということにします。実家です。どうでしょう?スケイズ君のすごさが炸裂してしまっていますよね(半ギレ)
【★その3《特に無いです》】
はい。特に無いです。以上です。
まぁ好きなカードに理由なんてあんまりないですからね。好きだから好き、程度のもので。
ウィザーズ最大の功績
いやぁ~。しかし私思うんですけどね、WotCはよくぞMTGというファンタジックな世界でクリーチャーやら呪文やらを駆使して戦わせるカードゲームの中でですよ?そんな空想的世界のなかで生きる(まぁ死んでるんですが)生物の中によくぞ『ゾンビ』を盛り込んでくれたなぁ、と!ええ!私は思うわけですよ!これこそウィザーズの最大の功績ですよ!(鼻息)
だって少し冷静に考えてみてください。アルファの収録クリーチャーだけみてもそこにはエルフやドワーフ、ゴブリン、ドラゴン、オーク、ツリーフォーク、ジン、ペガサス、デーモン等々、いかにも伝説や民話を題材にした存在ばかりです。
そんな中での『ゾンビ』ですよ?めちゃすごくないですか?しかもよくよく考えてみれば、ゾンビは現代の人間が創作目的で作り出した“ジャンル”であり上記の架空生物と比べたらその歴史は激浅いです。にも関わらず現在にいたるまで確固とした地位を築いているってはっきりいってめちゃヤバくないですか?他にそんなクリーチャーいます?(吐血)
もちろん、死んだ者が生き返り動き回る黄泉の国からの来訪者的なイメージを持つ民俗学的な説話や伝説はそれこそ世界中にあり、それを何か特定の存在にカテゴライズするのにゾンビが最も分かりやすかったというだけかもしれませんが、それでも堂々と『ゾンビ』を謳っているのがヲタクは嬉しいわけなのですよ、ええ。
(しかしゾンビ好きな方ならひょっとするとここでタヒチのブードゥーがゾンビの起源では?と仰る方もいるかもしれませんが、MTGのゾンビは明らかにそのタイプのものではなく、現在世間一般的に認知されているいわゆる“ゾンビ三原則”にのっとった《ロメロ型》のものです。)
[※追記:スケイズ以降のゾンビはロメロ型でない種も多く、上記の記述は不確かな部分を多く含んでおりました。そもそもMTGのゾンビたちは“噛まれると感染する”という鉄則が明示されていないので、やはりロメロ型のゾンビと一概には言い難い部分を多分に孕んでおります。ウィルス→人間が感染→増殖、という映画的な順はたどらず、そもそもの種として(ドラゴンやマーフォークのように)最初から存在していたいち種族“ゾンビ”と考える方が無難そうです。しかしながらここで注記しておきたいのはスケイズ・ゾンビのフレイバーに当てられたコウルリッジの詩で、そこには“こんな死人が蘇るなど…”との記載があることです。フレイバーとMTGの世界観は必ずしも完全にリンクはしないですが、ここには“死人”=“元人間”であった可能性がほのめかされていることに留意して頂きたいです。(2021.3.29)]
ですから私は全ゾンビ兼MTGヲタクを代表して、ゾンビをセット内に組み込むことに決めた開発者に永遠の感謝をここに捧げます。ありがとう(キモめ)。
MTGとゾンビの関係について
ゾンビの歴史
さて、ここからは少しヲタク向けの内容になりますが、MTGが生まれた当時のゾンビコンテンツの盛り上がりについて考えてみたいと思います。はたして当時世界はゾンビについてどれほどの熱量をもっていたのでしょうか。
岡本健氏の『ゾンビ学』によれば、年代別のゾンビ映画の公開本数は下記のように推移しているそうです。
1970年代:60本
1980年代:135本
1990年代:77本
2000年代:318本
(※氏の本では各年ごとの公開本数が詳述されておりますが、ここでは総計を記しております)
さて、上の年代別ゾンビ映画公開数をみると興味深いものがあります。
まず注目すべきは70年代→80年代間の増加数です。60本から135本と、その数なんと倍以上の増加です。
理由はいくつかありますが、まず忘れてならないのはあの映画の存在です。それが、そう…
『Dawn of the Dead』(邦題『ゾンビ』)です。(ちなみにですが、ゾンビヲタクとしての筆者の最終目標はスケイズ・ゾンビかこのDawn of the Deadの原画を手に入れることです…情報求ム)
ゾンビ映画史的にみると、ロメロの超名作にしてその後のゾンビコンテンツを決定的に方向付けてしまったこの『Dawn of the Dead』が1978年の公開であり、これが世界的に空前のヒットを記録します。80年代のゾンビ作品が倍増した理由にはこの作品が大きく影響しているのは間違いありません。そして、この『ゾンビ』のヒットを受けて各国でもゾンビ映画がつくられるようになっていきました(パクリもののB級作品も乱発されます)。上記の数字は見事にそれが反映されている結果なわけです。(とにかくこの映画は一人でも多くの人に観て欲しいです…)
また、マイケル・ジャクソンの『スリラー』の発売が1982年、純粋なホラーとしてのゾンビ映画が行き詰まりを感じるなかコメディ路線に大胆なかじを切って成功を納めた『バタリアン』が1985年と、新しいゾンビの可能性が掘り下げられながら、ゾンビウィルスは文字通り世間に広く感染して広まっていきました。
MTG発売当時のゾンビを取り巻く状況
そして注目はやはりMTGの発売年でもある90年代です。
80年代の猛烈な盛り上がりを維持してブームは爆発するのかと思いきや、その数は一気に半減。80年代には135本も作られていたゾンビ映画は90年代では77本にまでその数を落としています。90年代はエポックメイキングなゾンビ作品は現れず、ゾンビ映画は冬の時代を迎えてゆきます。(もちろん良い作品は沢山ありますが、世界ではその熱が一度冷めていった時期といえます)
しかし…!そんな状況の中でもマジックの世界にはゾンビが這い出してきていたわけです。過去のゾンビ作品群が後々の人類に与えた衝撃は何年たっても反響し続けていたわけですね。私はこの点にゾンビヲタクとしてシンプルに感動するのです。収録クリーチャー会議(なんやそれ?)でゾンビを参加させる提言をしてくれた人、ありがとう。(リチャード・ガーフィールド氏なんですかね?)
[※追記:本記事をご覧になってくれた方のご意見の中で、“MTGにゾンビが収録された最も直接的な影響は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)からであろう”というものがあり、これには私も全面的に賛成の立場にあります。筆者はゲーム史に疎くその方面の考察を完全に取りこぼしておりました。映画史の中でのゾンビの振る舞いとの比較検討しかできず、収録理由に関しては正確さを欠く結果となったことを痛感しています。いつかその方面からも考察を進めたいと思います。(2021.4.1)]
ちなみに上記の映画公開数の2000年代における爆発的な増加についてですが、決定的だったのは96年に発売された『バイオハザード』のその後の世界的な流行と言われております。その他にも新しい角度からつくられた『28日後…』や『ショーン・オブ・ザ・デッド』のヒットも影響しています。この頃になるともうゾンビは誰もが知るメジャーないちジャンルとしてその地位を確固たるものにしたと言えます。
さてさて、、MTGの話そっちのけでジャンルとしてのゾンビについてダラダラと鼻息荒く語ってしまいました。ここまで読んでくれた方々にゾンビ史とMTGの関係を知っていただければこの記事を書いた甲斐があったというもの。是非心の片隅にでも留めておいて頂ければ幸いです。
スケイズ君のゾンビ指数採点
では、そろそろ皆さんもゾンビヲタクの鼻息を浴び散らかして辟易としてくる頃合いだと思うので最後にお待ちかねスケイズ君のゾンビ指数を採点して終わりにしましょう。さあ、その気になる得点は~…(ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル…バンッ!)←ドラムロール
ゾンビ度:★★★★★
特別度 :★★★★★
イラスト:★★★★★
儚さ :★★★★★
おめでとうございます!スケイズ君、見事に満点ゾンビです。
さて、審査項目を見てゆきましょう。
まずはゾンビ度から。このカードの虚ろな目で群れをなして肉を求め徘徊するイラスト、古典作品からの見事な引用が光る最高のフレイバー、シンプルな弱さを突き詰めたバニラという無能力さ等含め、ゾンビ度は文句なしに最高得点ですね。スケイズにならなんなら噛まれてもいいまであります(病気)
次に特別度ですが、前述しているとおり全ゾンビの始まりであるこのカードはいうまでもなくヴェルタースオリジナル(特別)な一枚です。やはりヲタクという生き物は初版にソソられちまいがちですからね…(ヨダレをぬぐう音)。
言うまでもなくイラストも最高です。単体では非力なゾンビの特性がイラストと能力と見事に噛み合って表現されておりこれも満点。ゾンビは群れてこそ驚異の存在となるのです。(まぁ群れたところで弱いのですが)
そして最後の儚さ。もう誰がどう見たって儚いです。ゾンビとは非力で儚い存在ですからね。さらに注目すべきはイラストの群れ感も高得点のポイントです。6体もいるのになんと2/2。1体あたり約0.3/0.3の非力さ。もうLittle Girl級の可愛さです。(Little Girlヲタクの皆さま申し訳ありません)。満場一致でパーフェクト・ゾンビです。
終わりに
さてさて、今回は私の最推しスケイズ・ゾンビについて紹介しましたがいかがだったでしょうか?途中完全にMTGを離れてゾンビ映画の話をしてしまいましたが…。これを機に皆さんのMTGライフの中で少しでもスケイズ・ゾンビについて思いを馳せる時間が生まれれば嬉しい限りです(迷惑)。
それでは!良きゾンビライフを!